物語は、連夜発生している辻斬りや盗賊団による凶悪事件をはじめ、塩や米などの価格高騰や偽小判の流通、さらには公儀発注の公共工事を巡る汚職の疑いなど、江戸や諸藩における諸問題について、
南町奉行・
大岡忠相や高級
幕臣(この高級幕臣が黒幕であることが多い)などから報告を受けた吉宗が、事態の深刻さに憂慮することから始まる。市井に出た吉宗は善人が不良浪人に襲われている現場に遭遇し、自慢の腕前で撃退することが定番となっているが、このシーンはストーリーの中心となる人物と知り合うきっかけにとどまらず、「邪魔に入った取るに足らない貧乏旗本」が後に「実は八代将軍・徳川吉宗だった」という、このドラマの特徴ともいうべき
カタルシスを得るための重要な役割を果たすこととなる。なお、あらかじめ騒動沙汰が起こる場所や時刻を知っていたかのような高い遭遇率が気になるところではあるが、そこはご都合主義の時代劇と割り切ってドラマに集中すべきである。吉宗の太刀筋に恐れをなした不良浪人たちは現場から逃走することとなるが、「尾行せよ」との命令が下ることを予め予想している御庭番は、吉宗とのアイコンタクトのみでその命を確認し後を追って走り去る。不良浪人たちは、周囲に十分な注意を払わぬまま黒幕の屋敷に逃げ込むため、尾行してきた御庭番にまんまと目撃されるという大失態を犯し、序盤早々から黒幕の目星がつくこともしばしばである。また、回によっては波止場で待つ黒幕が不良浪人の口を封じて船で逃亡することもあり、遺留品などをもとに地道な捜査を余儀なくされることもある。騒動沙汰の被害者に「襲われた理由に心当たりはないか」「差し支えなければ事情を話してもらえないか」などと身の上話を聞き出し、不幸な境遇を知った吉宗は、め組の頭や若い衆をはじめ、南町奉行・大岡忠相、
公儀御様御用(後に
浪人)・
山田朝右衛門、吉宗の母・お由利の方らと問題解決に向けて協力することとなる。
め組は、徳田新之助に姿を変えた吉宗が、身分を隠して城下の人々と触れ合うための拠点として出入りしている江戸の町火消である。権力の頂点に君臨する吉宗がその重責から解き放たれ、心安らぐひと時を過ごせる憩いの場所でもある。さっぱりした気性で曲ったことが大嫌いな江戸っ子肌の頭を筆頭に、まとまった組織力を武器にして吉宗とともに悪事に立ち向かう姿が心強い。吉宗の正体を知っているのは歴代の頭に限られており、おかみさんや若い衆、二代目頭・長次郎の姉などは、吉宗のことを慕いながらも“仕官の道も探さずブラブラ遊び呆けている気楽な三男坊”と信じ込んでいる。このため、「まったく、上様は一体何を考えてんだか」「新さんは偉いお役目とは縁がなくて気楽でいいねぇ」「こら、新の字!あんた居候の分際で真昼間からタダ酒飲んで図々しいったらありゃしないね!」などと吉宗の目の前で言いたい放題自由奔放な態度を炸裂させるため、これに困り果てて苦し紛れにお茶目な表情をする吉宗と、板挟みになって慌てふためきながら事態を収拾する頭の姿は、このドラマの名物シーンとして定着している。このパターンは、シリーズX(通称)での大岡忠相とその姪子にも受け継がれており、大岡邸などにおいて、いつもの癖で大岡よりも上座に座ったり、大岡のことを呼び捨てにする吉宗を「不良旗本」と決め付け、「徳田殿、少しは自分の身分を弁えたらどうですか」「そんなことをされては叔父の出世に響きます」などとストレートに苦言を呈するため、気まずい空気が流れて側近である大岡はめ組の頭以上に頭を抱えている。劇の序盤では、なごやかな一日の始まりを演出するためのめ組であるが、口封じに狙われている人物を保護したり、凶悪事件を警戒しての夜回り、若い衆たちを動員しての情報収集活動、さらには、事件の手掛かりとなる重要情報が得られたりと、悪事に挑む吉宗にとって無くてはならない存在となっている。なお、史実によれば、め組は
享保5年(
1720年)に徳川吉宗が設置した町火消47組(後に48組)のひとつであり、現在でいうところの
消防団にあたる。このほか、火消には、飯田橋、市ヶ谷、お茶の水、麹町の4か所に設置された公儀直轄の「定火消(じょうびけし)」、江戸城や各藩の江戸屋敷を火事から守るために組織された「大名火消」などがあり、これらは現在の消防署の礎となる組織である。このドラマでは、火事場において、め組と定火消(定火消の大役を利用して陰で火付け盗賊を働く悪役として登場)が管轄などをめぐってたびたび対立し、消火作業そっちのけで喧嘩を始めるなど、「そんなことしている場合か」とツッコミたくなる場面があるが、これらは「火事とけんかは江戸の華」といわれる史実を巧みに表現したものであり、実際には現代のような消防機器が発達していない江戸時代にあっては喧嘩などする余裕がなかったことはいうまでもなく、現在と同様、官民の火消が一致団結して消火活動(破壊による延火防止活動)を行っていたようである。
このドラマでは、脇役でありながら事件の解決には欠かせない御庭番の活躍も見所のひとつである。公儀御庭番は、吉宗が紀州から連れてきた隠密御用の紀州忍者のほか、江戸城の裏門や大奥の警護にあたる伊賀忍者、大手三門の守備を行う甲賀忍者などで構成されている。忍びの者たちは、
天正10年、本能寺の変で危機に陥った徳川家康を救った初代服部半蔵以来、公儀御庭番として忠節に励んできたという設定になっており、このドラマで活躍する御庭番は、元紀州藩主の吉宗が代々自分の家に仕え信用のある家柄から登用した男女二人の忍びで組織されている。吉宗の近辺に常に待機しており、市井をブラつく吉宗の警護はもちろん、吉宗直々の命により、悪事の証拠を掴むための諜報活動や事件の鍵を握る人物の身辺警護などを行う。その存在を知る者は、爺や大岡といった超側近に限られており、め組の頭などとも接触することはほとんどない(IV第64話では、初代組頭の辰五郎が吉宗に対し「先ほど(御庭番の)才三さんと会いましてね」という会話を交わしていることから、接触は少ないものの組頭もその存在を認識しているものと考えられる。しかし、二代目組頭の長次郎からはこのような場面は確認されていない)。町中では町人や行商人に、屋敷に潜入する際は忍びの格好という具合にその場の状況に応じた装いで活動する。そのほか、二人の御庭番が夫婦という設定で貧乏長屋に住み込んで内情を探ったりするほか、賭場の博打打ちや問屋で働く用人、大商の番頭や手代、飴売り商人、女中奉公の娘、さらには大奥に潜入したりと様々な身分になりすまして潜入捜査を行うこともある。屋敷の屋根裏や床下から内情を探る場面では勘の鋭い黒幕に気付かれて槍や刀で突かれる時代劇お決まりのシーンもあり、不覚にもかすり傷を負う場合があるが、卓越した身体能力と超一流の武術を心得ている御庭番が捕縛されたり命を落とすことはまずない。物語が進行する中で視聴者もこうした特長に気付いているため、善人が危うくなる場面やクライマックスシーンに御庭番が登場することで、安心感はもとより壮快感さえ覚える心理的効果が得られる。もっとも、吉宗ほどの剣豪ならばクライマックスシーンも一人で十分ではないかとも考えられるが、回によっては、戦いに専念する吉宗に向け、死角から鉄砲などで殺害しようと試みた悪党を危機一髪のところで押さえたり、自ら盾となり負傷する場面も見受けられることから、やはりなくてはならない存在といえよう。また、吉宗自身も、諜報活動で失敗し切腹しようとした御庭番を戒め、「お前の腕を見込んでいる」「人は失敗を重ねてこそ成長できる」「この吉宗が仕事に完全無欠な人間だけを望んでいると思っているのか」「これからも頼むぞ」などと愛情を込めて接することもあり、単なる上下関係ではない強い絆で結ばれている。このように、厳しい規律のもと忠誠心の限りを尽くし、命を捧げることも惜しまない誠実で礼儀正しい姿がこのドラマにおける御庭番の魅力たる所以である。高島礼子が御庭番役で芸能界デビューを果たし、女優の登竜門として注目され続けたことからも、時代劇界において重要な役柄であったことが伺い知れる。